フェニックス尼崎沖管理型処分場の早期安定化対策

※ 本論文は土と基礎Vol.51、No.8に掲載されたものを再構成したものです。

1. は じ め に

大阪湾広域臨海環境整備センターの尼崎沖管理型処分場 (面積28ha)は、
 大阪湾の最奥、淀川の河口付近に位置する。
 1990年1月から廃棄物の水中埋立処分を開始し、2002年3月に廃棄物の受入れを終了した。
  埋立処分されている主な廃棄物は、一般廃棄物焼却灰、汚泥焼却灰等である。
 廃棄層内に存在する地下水 (保有水)には汚濁物質 (COD、T-N等)が溶出しているため、
 水質は排水基準を満足していない。
  そこで、処分場を早期に廃止するため、管理型処分場全体に集水暗渠を設置し、早期安定化を図ることとしている。
 当処分場における早期安定化対策のシナリオに基づいた実証試験の結果、
 それを活用して施工した集水暗渠の概要と、今後の安定化の進め方に関して報告する。

当社では、先駆けて積極的にこの問題へ取り組んでおります。是非一度、ご相談ください。

2. 早期安定化対策のシナリオ


 当処分場における早期安定化対策のシナリオの概要は以下のとおりである。(図−1)


@ 管理型処分場に降った雨が、排水基準を満足する水質で海域に排出される集水暗渠を利用したシステムを構築する。 暗渠の設置深さは平均塑望干潮位(LWL)とする。
A 集水暗渠を処分場全体に設置することで、保有水位を地域差なく均等に低下させることを可能にし、 時間遅れのない安定化を期待する。
B 排水量を増加させることにより短時間に保有水位を低下させ、好気的雰囲気である領域を拡大する。 これにより廃棄物 (有機物)の分解を促進し、早期安定化を期待する。

3. 早期安定化実証試験

(1) 試験方法


@ 実証試験設備:全長30m、管径200mmの集水暗渠と流末の人孔で構成される。
A 保有水排水方法:水中ポンプを人孔に設置し、日量43〜50m3で保有水を連続排水した。
B モニタリング項目:実証試験設備周辺に設置した観測孔と人孔で保有水位と水質の変動を観測した。水質分析項目は,pH、SS、COD、BOD、DO、T-N、ORP、EC、Ca2+、Cl-、S2-とした。


(2) 試験結果
@ 人孔内の保有水を連続して揚水すると、保有水は人孔に自然流下した。
集水暗渠付近の保有水位は、排水開始直後から急激に低下し,
24時間以内に集水暗渠設置深度 (LWL)付近で平衡状態 (水位低下量は0.5〜0.7m)となった。(図−2)
A LWL付近まで保有水位が低下した範囲は、集水暗渠から10m離れた地域まで確認された。
集水暗渠から約30m離れると水位の低下量は約0.2mとなり、60m以上離れると保有水位はほとんど変化しなかった。
B 実験開始後約1年が経過した時点で、集水管やフィルター材 (砕石)を目視観察した結果、
スケールの付着等の集水性能を低下させるような現象は発生していなかった。
C 集水された保有水の水質は、実験開始時から約2年が経過した時点では、
CODとT-Nがやや減少する傾向が見られているが、明確な変化は観測されていない。

4. 早期安定化対策の実際

 早期安定化実証試験の結果から、内水ポンドの持つ機能を活用しながら、
  処分場全体に集水暗渠を設置して早期安定化を図ることとした。

(1) 集水暗渠の概要
 実証試験の結果に基づいて、処分場の周縁部と中央部に集水暗渠を設置し、処分場全体の早期安定化の促進を 図っている。設置した集水暗渠は径400mmで総延長約2500mである(図−3〜4)。


(2) 内水ポンドの活用
  保有水の水質は高濃度であるため、保有水を直接処理施設へ導入することは、処理施設の能力から困難である。 そこで、内水ポンドの持つ自浄作用、原水槽機能および雨水調整池機能を活用し、集水された保有水を内水ポンド に導入して処理後放流する仕組みとした。これは,内水ポンドを残した形で廃棄物処分場の廃止をすることを意味している。


(3) 内水ポンドへの導入量の制御
 可能な限り多くの保有水を排水処理するほど早期の安定化が期待できるが、暗渠の集水能力に比べ処分場の 排水処理施設の能力は小さい。内水ポンドへ高濃度の保有水を制御せずに導入すると、内水ポンドの濃度 (=原水濃度)が処理能力を超えてしまう。
 そこで、暗渠の流末の人孔2箇所にゲートとポンプを設置し、 導入量の制御を行っている。当面は、ゲートを閉め、導入量の制御が容易なポンプのみを稼動させている。 保有水の濃度が低くなれば、ゲートのみで制御する計画である。


5. 今後の早期安定化対策の進め方

集水暗渠による保有水の集水を行い早期安定化を図るに際し、図−5に示す3項目のモニタリング

@ 排水基準達成を確認するモニタリング、
A 処理施設の能力を最大限に利用するためのモニタリング、
B 廃棄物層の安定化を把握するためのモニタリングを実施する。

 これらのモニタリングは相互に関連しており、
その結果を総合的に解析することで、廃止までの期間の推計、改善が進まない地点への対策と実施、
排水処理施設改造の検討等を行うことが可能になると考える。


平成15年1月に日量400m3の保有水を内水ポンドに導入した。
これは、1日当たりの処分場外への放流量の45〜50%に相当する。
導入されている保有水の水質は、pH=11、COD=80〜100mg/l、T-N=120mg/l、BOD=300〜400mg/lである。
内水ポンドのCOD、T-N、BOD等が上昇し、3月末には、処理施設の能力を超える濃度になると予想される状態となり、
導入量を300m3、100m3と減少させた。
しかし、内水ポンドの水温が高くなる時期には、処理効率が高くなるので、導入量を増やすことができる。
このように、内水ポンドの濃度、処理施設の能力を勘案して導入量を決定する、
「処理施設の能力を最大限に利用するためのモニタリング」がますます重要となってきている。

参 考 文 献

(1) 大阪湾広域臨海環境整備センター: 平成12年度環境省委託事業 海面最終処分場早期安定化調査報告書。
  (2) 束原 純・大島高志・榊 俊博・前田直也: 海面最終処分場の早期安定化実証試験例、
     第37回地盤工学研究発表会講演集、pp.2437〜2438、2002。
     原稿受理 (2003.5.23)

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