ダム護岸の緑化

ダム湖における湖岸法面の緑化 DG-001

 多目的ダム湖の貯水位は、洪水調節や用水の補給のために年間を通じて比較的大きな変動が発生します。

 はじめにその貯水位の変動に伴って、常時満水位以下の湖岸部の法面が貯水位低下時に出現いたしますが、
 長期間の水没や水位上下時の波浪等による浸食のために土壌が流出し、
 多くのダムで湖岸法面が裸地化している状況にあります。
 湖岸法面の裸地化は、年々浸食が進むために法面の崩壊につながります。
  また、ダム湖は水源地域の観光資源として活用されており、
 裸地法面は湖面を中心とした雄大な景観を損なう要因ともなっております。
  更に、ダム湖を中心とした生態系を見た場合においても、湖面と周囲の森林部との遷移区間にあたり、
 生態系の保全・復元という観点からも、解決しなければならない非常に重要な課題と言えます。

 当社では、先駆けて積極的にこの問題へ取り組んでおります。
  是非一度、ご相談ください。

全体的に裸池化している湖岸法面

写真−1 全体的に裸池化している湖岸法面

T ダム湖岸の現状

1 どのダム貯水池でも裸池法面の緑化は可能か

法面緑化は、植物によって行いますが、植物は年間を通してある一定の生活サイクルを持っています。
 ここで、ダムの貯水池の運用を考えますと、次のように分類することができます。

(1) 利水専用ダム(農業用水、水道用水、発電等)
    利水を専用とするダムは、年間を通じて貯水位の変動が不定期で、植物の生育期に水没するなど、
    植物の生活サイクルと水位変動が合わず、緑化は困難と言えます。

(2) 多目的ダム (治水と利水)
  @ 洪水期制限方式のダム
    夏期には、かならず洪水に対処するために、
    貯水位を常時満水位から洪水期制限水位に下げますので、
    この間の水域には夏の期間に植物が生育することができます。

 A サーチャージ方式のダム
   サーチャージ水位と常時満水位の間は、洪水調節時に短期間植物が水没いたしますが、
   ほとんどの植物は影響を受けません。

   従って、裸池法面の緑化対策は常時満水位〜洪水期制限水位の変動水域となります。
   (以下「湖岸法面」といいます)

緑化対策可能湖岸法面と水位の関係

図−1 緑化対策可能湖岸法面と水位の関係

2 湖岸法面は何故裸地化するのか

  湖岸法面の裸地化の原因は、湛水前の樹木の伐採の有無にかかわらず
   湛水によって樹木の殆どが枯れるため、樹木の根部によって保護されていた土壌の緊縛力がなくなり、
   以下の現象が主な原因となって土壌が流出するために裸地化いたします。

 (1) 貯水位変動時の波浪による侵食

 (2) 貯水位低下後に出現した湖岸法面への雨水等による侵食

 このうち、(1)の波浪による侵食が大きいと言えます。

樹木の根部に保護されている土壌 波浪等により侵食が進む湖岸法面
写真−2 樹木の根部に保護されている土壌
写真−3 波浪等により侵食が進む湖岸法面

 

3 湖岸法面の現状

 湖岸法面の各ダムの状況は、おおむね次のような状態となっております。

(1) 露出岩部

(2) 自然緑化部
  @ 木本部 (樹林部)
  A 草本部

(3) 裸地部
  ここで各部を、侵食という観点から考察いたしますと、次のことが言えます。

(1) 露出岩部
  侵食は進行しない。

(2) 自然緑化部
  @ 木本部
  木本部は、根を張ることによって土壌を緊縛し保護するため、波浪の侵食を防止しているので土壌が安定している。
  A 草本部
  草本部は雨水には耐えうるが、種子はのこして葉、茎及び根は枯れるため、波浪により侵食される。
  従って、年々侵食は進行する。

(3) 裸地部
  波浪及び雨水等に侵食されるので進行は速い。

4 水没しても植物は生育できるのか

ダム湖岸法面には、次の条件に耐えうる植物が生育しています。
 (1) 貯水池運用条件 (貯水位の変動による年間水没日数等)に対応できること。
 (2) 気象条件 (気温、降水量等)に合うこと。
 (3) 土壌条件 (土質、法面勾配、土壌成分等)がよいこと。

ダム湖岸法面に生育している植物 (木本類、草本類)は、
  各ダムの環境条件が異なるために共通性はあるものの生育種や優先種が異なっています。
  ここで、ダム湖岸法面に生育する植物の生態を観察いたしますと、次のことが言えます。

(1) ダム貯水池の運用条件により、生育する期間がどのダムでも最短で夏期の3ヶ月程度となるため、
  年間で夏期の短い期間に生活サイクルを完了させることができる植物。
  (2) 耐冠水性及び耐乾燥性に優れている植物。


 以上のように通常の生育条件に比べて、大変厳しい条件となりますので、
 湖岸法面に生育する植物の種の数は、大幅に限られてきます。
 種の数では、ダム湖岸法面に生育する植物は、草本類では約60種程度、
 木本類では約10〜20種類程度と推察されます。
 全国的に共通性がある代表的な植物は、次のとおりです。

種類 種名 備考
一年生草本 オオオナモミ 帰化植物
  エノコログサ  
  メヒシバ  
  アメリカセンダングサ 帰化植物
  オオイヌタデ  
  ヌカキビ  
  イヌビエ  
  コブナグサ  
越年生草本 ヒメムカシヨモギ 帰化植物
  メマツヨイグサ 帰化植物
  オオアレチノギク 帰化植物
多年草 スギナ  
  ツルヨシ  
木本類 ネムノキ  
  ヤマハンノキ  
  ヤナギ類  
  イタチハギ 帰化植物

湖岸法面に自生するヤナギ類の群落 (木本類)

写真−4 湖岸法面に自生するヤナギ類の群落 (木本類)

湖岸法面に自生する草本類

写真−5 湖岸法面に自生する草本類

5 湖岸法面で自然緑化部と裸地部があるのは何故か

  植物が生育している湖岸法面は、「土壌が安定」しています。
  波浪や降雨等の外力に侵食されずに土壌が安定していれば、栄養分や保水性に乏しくても、
  それに対応できる限られた植物が生育しています。
   「土壌の安定」には、「法面の土質」と「法面の勾配」が大きく影響しています。
  従って、裸地化している法面は「土壌が安定」していないということです。

左岸は土壌が安定しているので植物が生育している。

写真−6 左岸は土壌が安定しているので植物が生育している。
右岸は砂礫層で土壌が不安定なため裸地化している。

U 裸地対策工(緑化工)の検討

◇ 検討の流れ
  緑化対策工の実施にあたりましては、「T章のダム湖岸の現状」を踏まえて以下のフローにより検討いたします。

検討の流れ

 

1 緑化条件の調査・整理

 湖岸法面を緑化するためには、各ダムの条件がそれぞれ違いますので、次の調査を行なう必要があります。

(1) 貯水池運用条件
  湖岸法面に生育する植物は、水没日数 (又は露出日数)に大きく影響を受けます。
  各ダムとも貯水池運用方式が違いますので、貯水位変動図等から各植物が対応できる、
  年間水没日数を把握することが大切です。

(2) 気象条件 (気温、降水量、風向き、風速等)
  植物が生育するためには、気温や波浪の強弱、降雨等の条件を考慮する必要があります。

(3) 土壌条件 (土質、法面勾配、土壌成分、方位等)
  この中では、特に「土質」と「法面勾配」が大切です。
  これらの条件は、植物の種類や緑化基盤工の選定の基礎条件となります。

(4) 自然緑化部の植生調査
  導入植物を選定するためには、大切な調査です。

2 緑化目標の明確化

湖岸法面の緑化対策の目標は、次の3点にあります。

(1) 景観の修復 〜 ダム湖の周辺環境の復元

(2) 湖岸法面の安定化 〜 長期的な法面の崩壊の防止

(3) 自然環境の保全 〜 水辺の生態系の回復

(2) は必須事項ですが、(3)については、色々な意見があり取り組みかたによって、
  緑化工法が大きく変わってきますので、目標をしっかりすることが大切です。
  近年の自然環境重視の観点から、積極的に(3)に取り組むことが望まれます。

3 緑化候補地の設定

湖岸法面には、以下の部分があります。

  • 露出岩部
  • 木本類が生育している部分
  • 草本類が生育している部分
  • 裸地部分

以上の部分のどれを候補地とするか検討いたします。

4 緑化計画の策定

 ダム湖岸法面の緑化候補地を一挙に全面緑化することは、経済的、期間的に困難です。
  従って、優先順位を決めて徐々に緑化を図ることが望まれます。
  優先順位を決めるに当たっては、以下の事項を考慮いたします。

  1. 主要な視点場からの景観上重要な区域
  2. 土壌が不安定な法面
  3. 生態系保全にとって重要な法面
  4. 種子供給源 (シードバンク)としての必要な区域

5 導入植物の選定

 導入植物の選定に当たっては、原則として当該ダム貯水池の湖岸法面に生育する種を選定し、
  その中から郷土種の木本類を主体とした緑化対策が望まれます。

 木本類を生育させるためには、「土壌の安定」が必要であり、
  土壌が安定すれば、草本類は周辺から自然に侵入してきます。
  従って、木本類と草本類が混在する多様性のある樹林帯を形成することができます。

樹林と草本の混在風景 (自生

写真-7 樹林と草本の混在風景 (自生)

6 緑化工法の選定

 緑化工法の基礎になる緑化基盤工は、湖岸法面の 「土質」と 「法面勾配」に大きく左右されます。
  従って、地形と土質の調査が大切です。

 現在までに緑化基盤工は、色々な試みがなされてきました。
  しかしながら、地形・地質等が多種多様なので、現時点では試験的研究段階にあると言えます。
   更に、近年の傾向である 「コストの縮減」も図らなければなりません。

緑化工法の選定は、現地の事前調査を行なうと共に、緑化工法の事例を収集参考とすることが重要となります。

 

7 試験施工とモニタリング

 ダム湖岸法面の緑化に当たっては、まず最初試験施工とし、導入植物や緑化基盤工の状況をモニタリングして、
  その結果を反映しながら順次改良を加え、本施工に移行することが望ましいと思います。
   尚、植物にとって植樹後約3〜5年は重要な成長期なので、この間はモニタリングを実施して、
  補修及び今後の本施工に反映することが必要です。

マサ土の湖岸法面に施工された緑化工法
写真−8 マサ土の湖岸法面に施工された緑化工法

 

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